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【航空集配サービス創立50周年特集】 Dairy Cargo掲載

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【航空集配サービス創立50周年特集】 
堀越社長に聞く「過去・現在・未来」 
生鮮再構築、運送強化で成長へ 

 1970年の創業から今年で50周年を迎える航空集配サービス。航空貨物市場での生鮮やロジスティクス、そして引越を軸に、事業を多角化させながら成長を続けている。堀越大吉郎代表取締役社長はさらなる持続成長に向けた事業方針について、「生鮮事業の再構築」と「運送会社としてのプレゼンス向上」を挙げる。同社の過去・現在・未来について聞いた。(文中敬称略、聞き手・戸田圭彦)

■社内ベンチャー推奨の企業風土

 ――創業から業容の幅も広がってきた。事業の転換点はどこだったと考えるか。

 堀越 まずは1978年の成田空港の開港だ。創業当初より視野には入れていたはずだが、躊躇なく進出したということが大きい。取扱量が増え、顧客層もフォワーダー一辺倒だったのが、荷主や市場とのやり取りが出てきた。成田で生鮮という軸を持って成長してきたことで今ある会社のかたちは作れたのではないか。成田に関して言えば1996年の「仕分け基準」の撤廃も転換点と言える。空港外に施設を構えて、保税蔵置場をメニューに加え、ニーズに応じていく中でサービスも増やすことができた。

 2005年の中部空港営業所開設、そして同年に関空内に低温施設を設置し、保税蔵置場免許を取得したことも挙げたい。そこから福岡営業所の移転、伊丹ロジスティクスセンターの開設、関空内貨物地区に輸出専用の保税上屋KIX-Coolexpの開設につながっていく。

 ――自身が社長に就任した08年以降はどのような方針で会社を率いてきたか。

 堀越 就任はリーマン・ショックの直前ですぐに大きなダメージがあった。そこをスタートと考えれば、出血を止めながら成長した12年だったと言える。主力の生鮮貨物も隆盛期を終え、手放しでは成長できない。どれだけ品数を増やしていけるかというのが命題だった。

 大事にしていたのは若者から出てきたアイデアや社内ベンチャーを推奨するような風土だ。当社は幸か不幸か超大口の顧客もなく、色が付いている訳でもない。物流企業としてさまざまな形のコーディネートや、取り組みが可能だ。食品輸出の拡大に取り組む貿易事業もそうした中から生まれてきた。海外での展示会の開催や、酒販免許を取得するなど、全く新しい取り組みもチャレンジしている。

 ――現在の事業別売上構成は。

 堀越 前期の売上高は航空集配サービス単体で111億円。グループ全体では121億円ほどだ。内訳は生鮮事業で5割、残りを引越事業とロジスティクス事業が分ける格好だ。ただし、事業別とはいえ、生鮮の拠点ではドライ貨物を扱うところもあり、7月に組織を改編し事業別から地域別の体制に変更した。

 ――直近で成長の見られる事業やサービスは。

 堀越 生鮮食料品の輸出はその1つだ。関空の保税上屋の効果もある。またドライ貨物でも温度管理を必要とする医薬品の取り扱いが増えている。医薬品については成長分野として今後も力を入れていきたい。専門チームを設置しており、GDP(医薬品の適性流通基準)法制化も見込まれる中で、高度な品質マネジメントシステムの構築に努めている。

 輸入では通販関連などのSPも伸びている。一方、従来のドライの輸出は、もともと貿易摩擦の影響で落ち込みがみられていたところ、新型コロナウイルスがさらに追い打ちをかけている。物量が減った今の市況が常態化する可能性も想定する必要があるだろう。

■生鮮施設新設、22年までに

 ――中長期の成長ビジョンについて。

 堀越 生鮮事業の再構築をする必要があると考えている。先ほど、隆盛期を終えたという話をしたが、まだ当社の売上構成割合は大きい。一方、マーケットは変化しており、アイテムが様変わりしている。かつては大量に空輸されていたマグロが海上輸送に一部シフトし、代わって野菜が増えている。多品種小ロット化が進み、収益構造も変わってきた。

 現在のビジネスモデルは市場配送の輸送を行うもので、また地方が弱いという課題もある。今後は量販店へのアプローチや地方展開の強化を見据えて、配送網や配送ルート、施設も含めた多元化を考えていかなければならない。全国の全体的な食品物流へ、どうやって足掛かりを作っていくかというのがポイントだろう。

 コロナ影響で計画が止まっているが、数年前より新拠点の整備を考えている。既存の成田施設ほどの規模はほしい。本来であれば、この春から羽田も大きく増便が予定されており、成田と羽田の二極化の中で、どこに拠点を置くかというのも非常に大きな問題だ。埼玉、神奈川あたりを検討しており、土地や物件を探している。22年度には開設に至りたい。

 ――ロジスティクス、引越事業での成長プランは。

 堀越 ロジはやはり医薬品の強化だ。施設や車両のスペックを拡充する。専用車両も必要になるだろう。引越はエリアの拡充を図る。現在は東名阪で自社展開しているが、九州など新たな地域に拠点を設けたい。

 ――売り上げの数値目標は。

 堀越 長期計画が終了する2028年3月期で300億円を掲げているが、自助努力だけではまず無理だろう。これまでと戦略を変えてアライアンスという手段も考えたい。ターゲットになるのは特定地域で基盤を持つ会社だ。第一に運送会社としてのプレゼンスをもっと高めたいという考えがある。

■出荷指示のデジタル化を推進

 ――事業拡大に向けては人手不足という問題もある。

 堀越 その通りで、画期的な対策はなかなか見つからない。ただ決定打ではないにせよ、何か対策を打っていかなければならない。直近では4月に人事制度を変更した。働き方改革と法制度の変更を踏まえてのものだが、ドライバーについては安定的な収入と、業務量に応じた収入をミックスした形の制度とした。

 業務の多角化に向けての人材育成も課題だと認識している。教育については何よりもまず、成長する機会を提供することが重要だ。当社は毎年、新卒採用を行っているが、この規模と業態では珍しいケースだろう。それだけ若い人材の育成を大事にしており、これからも継続していく。

 今の若い人材は成長に対して非常に敏感だ。この仕事をして、この組織に属して、どういった成長ができるのか。それを示してあげることが大事だと思っている。会社としても「教育の最初の受益者は個人である」という考え方だ。個人が成長して、それを生かす生かさないは人事の話になる。会社の制度や教育機会を使って、益を受けてほしい。研修についても、持ち運びできる能力として「ポータブルスキル」をいかに高められるかを重視している。

 ――業務のデジタル化についての考えは。

 堀越 保税蔵置場の業務では、以前から貨物のステータスをシステムに反映し、顧客や関係者が外部から確認できる仕組みを構築している。それをもっとブラッシュアップさせたいというのが1つだ。

 また現在取り組んでいるのは、生鮮貨物のインストラクション(出荷指示)のデジタル化だ。現行の業務ではレポート用紙に手書きで指示を出しているところもある。システム開発を外注し、今はトライアルの段階まできた。フォーマットや手順を標準化させて、荷主の理解を得ながら進めていきたい。

 ――BCP対応についても聞かせてほしい。

 堀越 18年の台風21号、19年の台風19号で、それぞれ関空と成田の施設が被害を受けた。特に成田は停電の影響で、生鮮施設が大きな影響を受けた。それらを踏まえて、電気と通信についてバックアップ体制を強化している。

 発電機と備蓄物資を整え、成田については冷蔵設備と空調設備が継続して稼働できる大型発電機を導入している。また通信面で管理職には複数キャリアの携帯電話を持たせた他、ポケットwifiなどの通信設備や無線を導入し、さらにサーバーの増強も行った。また災害時の事業継続や従業員の安全面も考え、安否確認システムも導入している。

 ――今期の見通しは。

 堀越 4、5月の業績は大きく落ち込んだ。物量が大きく落ち込んでおり、当面まだ回復は見込み難く、前年比20%減くらいで推移すると想定している。まだ成田、関空は物量があるが中部や福岡は非常に厳しく、ここをどのように建て直していくかが課題だ。コスト管理を徹底し黒字を確保しなければならない。

写真キャプション:堀越大吉郎社長